出庫時間を「始業時間」にしてはいけない|運転日報の正しい使い方と労働時間管理の落とし穴
運転日報(乗務記録)は、ドライバーの過労や過積載、さらには安全運転のために欠かせない帳票であり、すべての**事業用自動車(特に車両総重量が一定以上の車両)**での乗務時に記録が義務付けられています(道路交通法施行規則に基づく)。
「そんなの当たり前だ」と思う方も多いでしょう。ですが、この「当たり前」が誤った労働時間管理につながってしまうケースが、いまだ多く見られます。
■ 労働時間を正確に管理できない運転日報がある
多くの運送会社では、運転日報の情報をもとに労働時間の把握・勤怠管理を行っています。中にはexcelフォーマットで手動入力したり、アプリやシステムと連携して記録を自動化している企業も増えてきました。
しかし注意すべき点として、「絶対に正確な労働時間が把握できない運転日報の形式」が存在します。
■ 「出庫時間」は「始業時間」ではない
労働基準法における労働時間の定義は、明確です。
労働時間=始業時刻〜終業時刻であり、会社が指示・指揮・監督している業務時間が該当します。
ところが一部の運転日報では、「出庫時間(乗務開始)」と「帰庫時間(乗務終了)」しか記録されていないフォーマットがあります。これは大きな問題です。
なぜなら、**点呼や車両点検などは「出庫前」**に行われており、すでに労働が始まっているからです。
つまり、「出庫時間」を始業時間として記録してしまうと、労働時間を過少に申告するリスクが生じ、最悪の場合、労働基準法違反や罰則の対象にもなりかねません。
■ 「10分未満の休憩」も省略せずに記録すべき理由
運転日報では、休憩時間の記録も義務付けられています。
規定では「10分未満の休憩は記録を省略しても差し支えない」とされていますが、これは乗務記録上の運用ルールであって、労働時間の計算においては無効です。
なぜなら、労働時間=拘束時間−休憩時間で計算されるためです。
仮に10分未満の休憩を複数回取っていたとしても、それを省略してしまうと、実際よりも長い労働時間とみなされる可能性があります。
結果として、残業時間や時間外労働の誤認、労働契約違反にもつながりかねません。
■ 運転日報の見直しは「簡単」で「重要」な労務改善策
運転日報は、あくまで乗務に関する記録を取るための帳票であり、正確な労働時間の記録には補足が必要です。以下の項目が記載されているか、今すぐチェックしてみてください。
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始業時刻(点呼・点検開始時刻を含む)
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終業時刻
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10分未満を含めた正確な休憩時間
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運行経路・走行距離・発着地点・使用車両の情報(データとして活用可能)
これらをデータとしてexcelやシステムに保存しておけば、万が一の監査や労務トラブル時にも**エビデンス(証拠書類)**として活用できます。
■ まとめ|“紙の運転日報”を使い続けるリスクとは?
運転日報が紙ベースで作成されている企業では、記録の不備や労働時間の誤差が発生しやすく、対応が後手に回る傾向があります。
特に、貨物自動車運送事業などでは、走行距離や積載量の把握、労務管理の効率化は経営の生命線とも言えます。
運転日報のフォーマットを見直し、必要に応じてアプリやクラウドシステムに移行することで、業務効率とコンプライアンス対応が大きく改善されます。
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