ここまでのコラムでは、運送業における書類のデジタル化についてお話ししてきました。特に、「デジタル運転者台帳」「デジタル車両台帳」「デジタル納品先カルテ」といった社内で既に存在する資料をデジタル化する取り組みについて言及しました。
https://app-logi.co.jp/column/applogi_column/7403/
これらの取り組みは、比較的簡単に実行でき、多くの企業で導入が進んでいる分野です。
今回のテーマは、近年導入が進んでいるトラックの位置情報を管理する「動態管理システム」について、さらに深く掘り下げていきます。
動態管理システム(アプリ)とは?
動態管理システムとは、GPSを搭載した端末を利用して、リアルタイムで車両の位置情報を把握するためのツールです。これにより、運送業者は運行中のトラックの位置を正確に追跡し、効率的な配車をサポートできます。たとえば、Appleの「iPhoneを探す」アプリをイメージするとわかりやすいでしょう。
https://support.apple.com/ja-jp/find-my
全てのトラックが同時に地図上に表示され、現在地を瞬時に確認できるのです。
システムの導入形態
動態管理システムには、いくつかの導入方法があります。それぞれの方法には長所と短所があり、企業のニーズや予算に応じて最適な選択をすることが求められます。
- デジタコに搭載された動態管理機能を利用する方法
デジタコ(デジタルタコグラフ)は、運行記録を自動的に収集し、分析するための機器です。このデジタコに動態管理機能が搭載されている場合、その機能を活用することで、車両の位置情報を効率よく管理できます。すべての機能が車載器に集中されているため、運行管理が一元化され、担当者の負担軽減に寄与します。ただし、デジタコの更新頻度が約5〜10分であるため、リアルタイム性に若干の遅れが生じることがデメリットとして挙げられます。 - スマートフォンを活用した動態管理アプリの利用
スマートフォンを利用することで、リアルタイムに近い更新頻度で車両の位置情報を把握することができます。さらに、運行指示の伝達やドライバーとのコミュニケーション、デジタル化された書類の共有など、様々な機能を組み合わせることが可能です。特に、今後のデジタルトランスフォーメーション(DX)を見据えたシステムとして非常に有用です。ただし、スマートフォンの購入および月額通信費がかかるため、コスト面での検討が必要です。 - シガーソケットなどを利用した専用端末を使用する方法
迅速に動態管理を開始したい企業にとっては、シガーソケットに差し込むだけで利用可能な専用端末が非常に便利です。この方法は、導入の手間が少なく、すぐに運用を開始できる点が魅力です。しかし、専用端末の購入費用がかかることや、位置情報の取得に特化しているため、将来的な機能拡張が難しい場合がある点に注意が必要です。DX化を見据えるなら、長期的な視点での機器選定が重要です。
追加のシステム機能と応用
動態管理システムの機能は位置情報の把握に留まりません。たとえば、以下のような機能が追加されることがあります。
- 運行履歴の自動保存と分析: 各トラックの運行履歴を保存し、後で分析できるようにする機能です。これにより、運行効率の改善や運行パターンの最適化が可能になります。
- 自動メッセージ送信: ドライバーが一定の条件を満たした際に、自動的にメッセージを送信する機能もあります。例えば、特定の地点を通過したときに配車担当者に通知が行くように設定することができます。
- 予防保守機能: 車両の運行状況に応じて、定期的なメンテナンスを自動で通知する機能もあります。これにより、車両の故障を未然に防ぎ、運行の安全性を高めることができます。
位置がリアルタイムで見えることのメリット
動態管理システムの最も大きなメリットは、リアルタイムでトラックの位置情報を把握できる点にあります。このシステムの導入により、配車担当者はトラックの位置、作業の進捗状況(積込み、荷卸し、休憩、移動など)、および経過時間を的確に把握することができます。
配車効率の向上
リアルタイムでの情報把握により、配車効率が大幅に向上します。たとえば、近くにいるトラックをすぐに次の配車先に回すことができるため、無駄な待機時間を削減できます。また、急な依頼にも迅速に対応できるため、顧客満足度の向上にも寄与します。
ドライバーとのコミュニケーションの強化
動態管理システムを使用することで、複数のドライバーと同時に情報を共有し、必要に応じてリアルタイムで指示を出すことが可能になります。これにより、コミュニケーションの遅れや誤解を防ぎ、運行全体の効率を高めることができます。
予期せぬトラブルへの迅速な対応
万が一、トラックが事故や故障に巻き込まれた場合でも、動態管理システムがリアルタイムで位置情報を提供するため、迅速に対応策を講じることができます。さらに、他のトラックに支援を要請することも容易になるため、運行の遅延を最小限に抑えることができます。
業務との連携方法
リアルタイム性を活用することで、動態管理システムは労務管理や改善基準告示の管理にも大きく貢献します。たとえば、納品が完了した後も休憩が取れていないドライバーに対して、適切なタイミングで休憩指示を出すことができるようになります。これにより、過度な拘束時間の防止や、労働基準法に基づく労務管理の強化が期待できます。
さらに、ドライバーが無意識のうちに拘束時間の最大値を超えてしまうことを防ぎ、エラーの発生を未然に防ぐことができます。これにより、労務管理の効率が向上し、違反リスクの軽減につながります。
将来の展望と動態管理の進化
動態管理システムは、単なる位置情報管理ツールにとどまりません。リアルタイムでの情報取得を活用することで、今後登場する新しいアプリケーションやシステムとの連携が進み、さらなるDX化が期待されます。例えば、AIを活用した予測分析や、自動運転技術との融合によるさらなる効率化が考えられます。これにより、運送業界全体が次世代の運行管理システムに移行するための礎が築かれるでしょう。