前回のコラムは、政府が発表した「運送業の2024問題」に対応するための政策パッケージに記載されている「トラックGメンの設置」についてお話をさせていただきました。
発荷主企業のみならず、着荷主企業も含め、適正な取引を阻害する疑いのある荷主企業・元請事業者の監視を強化するために、行政主導のGメンが動き始めるという内容です。 法規制は遵守されることが前提ですから、定着するまでには行政の力が必要になると思います。個人的には運送業のためになる施策と捉えており、大きく期待しております。
https://app-logi.co.jp/column/?p=7753&preview=true
さて、今回は、運送業の2024年問題で焦点となることが多い残業に関する内容です。 残業時間の上限規制が960時間になりますが、そもそも残業代の支払い方について正しい方法を改めて確認しておく必要があります。 正しいと思っていたことが実は間違っていた、本年から2025年に掛けてそのようなことが多く発生するのではないかと思っています。

違法な残業代の支払い方
運送会社の賃金の支払いでは、下記のような方法が取られていることがあります。
- 業務内容に応じて月ごとの賃金総額が決まっている(例えば50万円)
- 給与内訳は、
①基本給
②歩合給
③時間外手当 の3種類
時間外手当の計算式は、
賃金総額(50万円) − ①基本給 − ②歩合給 = ③時間外手当
この計算式をもって時間外手当はしっかりと払っていますよ、と主張されている場合があります。
このパターンは想像以上に採用されているケースが多いようです。結論としては違法です。なぜなら、時間外手当と言いつつ、①基本給と②歩合給を引いただけで、残業時間という概念がまったくなく、そもそも内訳の意味をもっていないためです。
またこれを改良したパターンとして、下記のパターンに変更した例があります。
- 業務内容に応じて月ごとの賃金総額が決まっている(例えば50万円)
- 給与内訳は、
①基本給(前例より増額)
②歩合給(前例より大きく減額)
③勤続手当(新設)
④時間外手当
⑤調整手当(新設) の5種類に変更
労働基準法に適用されるよう、①基本給 ②歩合給 ③勤続手当の3つを基礎とし、④時間外手当を計算、総額からこの①〜④を引き、その余りを⑤の調整給として支払って、賃金総額は変わらないようにするという仕組みです。
②の歩合給を大幅に下げることで、時間外手当の単価を下げ、差額に当たる金額を調整金として支払う仕組みとすることで、④の残業手当が増えれば、⑤の調整給が減り、残業手当が減れば調整給が増えるという、賃金総額は同じになる仕組みを考えたのでしょう。
一見、適法に見えるのですが、この方法は、2023年3月1日に最高裁で違法として判決が出ました。
最高裁の指摘は以下です。
「新給与体系は、その実質において、時間外労働等の有無やその多寡と直接関係なく決定される賃金総額を超えて労働基準法37条の割増賃金が生じないようにすべく、旧給与体系の下においては通常の労働時間の賃金に当たる基本歩合給として支払われていた賃金の一部につき、名目のみを本件割増賃金に置き換えて支払うことを内容とする賃金体系であるというべきである。」
今回の割増賃金全体を含めた賃金体系は、労働基準法の割増賃金を発生させない目的であり、時間外労働の対価として支払っていると評価できないという判断です。
「本件割増賃金のうちどの部分が時間外労働等に対する対価に当たるかが明確になっているといった事情もうかがわれない」として、固定残業代が有効とされるための明確区分性要件も否定されると判断されています。
要はいくら働いても、給料の総額が同じというのはおかしいでしょうと、こういった引き算方式の給与体系を違法と判断したとも捉えられます。
本件に詳しい、弁護士法人戸田労務経営の労働問題総合相談サイト https://roudou.nishifuna-law.com/ によると、重要なのは残業代の支払いが判別可能なのかどうかという点であると指摘しています。 これは全くもって指摘のとおりで、当社が支援する企業も当初は出勤時間と退勤時間が不明確で、残業時間が不明確であるため、残業代の支払いも判別不可能である場合が多くなっていました。
本件はもらえる運賃の中でやりくりを検討した結果、行き着いてしまった賃金体系とも捉えられます。
2024年問題とは、残業時間の上限規制のためにドライバーが確保できなくなるという問題に、フォーカスがあたることが多いですが、実は長時間労働問題と、残業手当支払問題の両方であると考えられます。
こちらでもこの記事を掲載しています。
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